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2019年8月31日 (土)

世界初の暗号切手(仮想アイテム付き切手)

Cryptostamp1

 「郵趣」誌9月号49頁の記事をご覧になった方も多いかと思いますが、オーストリアから6月11日に世界初の「暗号切手(crypto stamp)」が発行されました。私は一応IT技術を専門とする大学教員で、仮想通貨のことを"crypto currency"と呼ぶことも知っていましたので、年初に発表された年間発行計画に「クリプト切手(当初は5月30日に発行予定)」と書かれているのを見て、何か仮想通貨と絡めた変り種切手が発送されそうだと予想していましたが、実際発行された切手は予想を超える本格的なものでした。
 実は、この切手はすぐに売り切れたため、「郵趣」誌の記事の協力を頼まれた時点では私自身も現物が手元に無く、ブロックチェーンに関する自分の知識と各種サイトの紹介記事を元に情報提供しましたが、先日ようやく現物を入手できましたので、より詳しくご紹介します。

 切手の外観(冒頭の画像参照)は左半分が切手本体で右半分がタブになります。全体はちょうどクレジットカードと同じサイズのプラスティック製で、黒とホログラム印刷、そしてタブには2箇所のスクラッチが施されています。この段階で、特殊素材、ホログラム印刷、スクラッチ付の変り種切手です。
 最大の特徴の「仮想アイテム付き切手」というのは、仮想通貨の特徴であるブロックチェーン技術を活用した仮想アイテム(限定版のデジタル画像)が当初各切手に1個ずつ附属しているというものです。そして、仮想アイテムだけを分離して取引できるのです。仮想通貨として1番普及しているビットコインのブロックチェーンでは仮想通貨の単純な取引しかできませんが、2番目に普及しているイーサリアムでは仮想通貨の取引以外に簡単なプログラム(「スマートコントラクト」と呼ばれます。)を実行させることができます。そのスマートコントラクトの仕組みの内のERC721という規格を使うと、仮想アイテム(正式には「NFT:Non Fungible Token(非代替トークン)」と呼ばれます。)を発行・取引することができるようになります。今回の暗号切手は、このERC721規格を利用しています。

 仮想アイテム(限定版のデジタル画像)といってもピンと来ない方も多いと思います。ソーシャルゲーム等の中で使うレアなキャラクターや強いアイテムをイメージすると良いでしょう。例えば、クリプトキティというアプリでは、猫型のキャラクターを育てて売買するといったことが行われています。デジタル画像の画像自体は何枚でも複製できますが、ゲームアプリ等で使えるのは原本の所有者だけです。その所有者をブロックチェーン上のデータベースと連動させて管理しているのです。

 今回の暗号切手で用意された仮想アイテムは赤色、黄色、青色、緑色、黒色(実際はグレー)の5種類のデジタル画像という単純なものですが、それぞれの出現数は、赤1,500、黄10,000、青20,000、緑40,000、黒78,500と差が付けられています。つまり赤色の画像は非常に少なくレアなアイテムだといえるでしょう。実際にebayでは赤色の切手が20万円以上の高値になっているようです。

 言葉だけでは判りにくいので、実際に操作してみましょう。まず仮想アイテムの色についてはスクラッチを削らずに確認できます。切手本体のQRコードを読みこむか、オーストリア郵政の暗号切手専用サイト(次の画像)でタブの[1]に印刷された文字列(5桁または6桁、極まれに4桁の切手も有)を入力して確認します。
Cryptohp1

 冒頭の画像の2枚の切手の文字列"5ojHFA"と "2sEhqZ"を入力してみます。
Cryptohp2 Cryptohp3
 それぞれの仮想アイテムの画像は、黒色(実際はグレー)と緑色だということが判ります。
  実は今回、運の良いことに黄、緑、黒の3色が入手できました。その内、黒と緑を1枚ずつ使って紹介しています。

 また、画像の下の文字列の2行目には、この仮想アイテムを現時点で保有しているイーサリアムのアドレス(42桁の文字列)が表示されています。今回、黒色画像では"0x9d60D760e3E288B83E63D9F36718A5bc24bF65c3"、緑色画像では"0x123dA47d668Bf48d4947CD816146dEB0A04A6b40"と表示されています。
 実は、これらのアドレスは、切手のタブのスクラッチで隠されている[2]の部分と同じです。つまり、この[2]のアドレスは、スクラッチを削らなくても確認できるのです。
 少しもったいないですが、黒色の方のスクラッチを削ってみました。
Cryptostamp2

 次に、アドレスのすぐ下の"ken Sie hier"と書かれたリンクをクリックすると、下のような画面になります。

Cryptohp4
 これは、ブロックチェーン上のデータベースと連動した画面で、アドレス"0x9d60D760e3E288B83E63D9F36718A5bc24bF65c3"が現在保有している仮想アイテムの数(画面中央部分の「1」という数字)とその画像、画像の文字列(5ojHFA)等が表示されます。
 さらに注目すべきは、各アドレスには、仮想通貨イーサリアムも付いている点です。0.001666666666666666 ETHという表示がそれで、これは切手発行当時の時価で換算すると約50円相当の価値になります。仮想アイテムを送信する際の手数料としてイーサリアムが必要なため、サービスとして付けられたのでしょうが、額面の他に50円相当の仮想通貨も付いているというのは非常にお得ですね。

 最後に、この仮想アイテムの取引を行います。取引を行うには、前述のERC721規格に対応したイーサリアムのウォレット(送受信ソフト)が必要ですが、仮想アイテムだけを送信するならこの暗号切手専用サイトに用意されている簡単なウォレット機能が使えますので、とりあえずはこれを使ってみます。
 ウォレットの他には、スクラッチに隠れていた[3]の暗号キーと送信先のアドレスが必要です。ここでの注意事項は、送信先のアドレスはイーサリアムのアドレスなら何でも良いわけではなく、ERC721に対応したアドレスに限られます。対応ウォレットで生成されたアドレスや暗号切手で使われているアドレスはOKですが、仮想通貨取引所から付与されたアドレスはNGです。

 今回は、先に紹介した緑の画像が納められているアドレス"0x123dA47d668Bf48d4947CD816146dEB0A04A6b40 "宛に送ってみます。
 暗号切手専用サイトのウォレット機能は、最初に画像の色を表示した画面の下部に有ります。そこの「Transaktion Starten」と表示されたボタンを押します。
Cryptostamp4
 送信先のアドレスを入力して「Weiter」をクリックし
ます。
 
Cryptostamp51
 [3]の暗号キーを入力し、「Weiter」をクリックします。QRコードを読み込む場合は、スクラッチ屑を完全に取り除いてください。
Cryptostamp6
 送受信先のアドレスを確認したら、「Transaktion absenden」をクリックします。
Cryptostamp7

 イーサリアムはビットコインよりも送信が早く、1分ぐらいで送信が完了し、画面が切り替わります。黒色"5ojHFA "の画像を保有しているアドレスが送信先の"0x123dA47d668Bf48d4947CD816146dEB0A04A6b40"に変わっています。また、8月31日付けの取引履歴が追加されています(下の画面の最終行)。
Cryptostamp8
 "Klicken Sie hier"の部分をクリックすると、最初は緑だけだったアドレスに黒が追加され、現時点で2つの仮想アイテムを保有しているアドレスとなったことが判ります。
Cryptostamp85

 反対に送信元の"0x9d60D760e3E288B83E63D9F36718A5bc24bF65c3 "アドレスの保有する仮想アイテムは0になっています。また、イーサリアムの残高も0.001158165166666666 ETHに減っています。
Cryptostamp9

 以上が、暗号切手の特徴と仮想アイテムの取り引きのレポートです。また追加情報があればお伝えしていきます。

 

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